小形正男
東京大学理学系研究科
専門: 凝縮系理論、物性理論
e-mail: ogata@phys.s.u-tokyo.ac.jp

一部(ほとんど)工事中です。随時作成


English version

2016年、固体物理学I 講義ノート


 講義ノート中の【演習問題】はレポートではないが、なるべく自分で考えること。


  •  第1回、第2回 (概要、原子から分子へ)
  •  第3回 (固体中の電子)
  •  第4回 (Nearly Free Electrons)
  •  第5回 (Tight-bindind model)
  •  第6回 (電子物性)
  •  第7回 (格子振動)
  •  第8回 (第二量子化)配布プリントP1: 配布プリントP2: 配布プリントP3: 配布プリントP4
  •  第9回 (固体中電子のダイナミクス)
  •  第10回 (輸送係数)
  •  1月25日(水)2限が期末試験です。自筆ノートのみ持ち込み可(自分で1回式を書いてみることが大事)



    朝日新聞2015年11月14日(土)のe6面「今さら聞けない」シリーズで、「鏡映反転」が出ていました。
    実は私の教科書「量子力学」(裳華房2007)において、
    「鏡は左右逆に映すものではなく、前後を逆にするものなのである」(223ページ)と書いたのですが、
    それと全く同じことをファインマン先生も説明していることが発覚しました!(記事によると英BBCの番組で)。

    「量子力学」の教科書では「このように明らさまに説明している本は、少ないと思う。」と書きましたが、 ファインマン先生もどこかに書かれているでしょうか。
    ついでに、朝日新聞の解説の図にあるような鏡の見え方の問題についても、 「量子力学」でも同じような図を用いて説明しています。さて、これらの絵を見て、まだ左右だけが反転していると自身を持って言えるでしょうか?是非、ご購入の上ご検討ください。



    2015年、統計力学II 講義ノート (new 2015.11.19 + 2015.10.23+ 12.22)


     試験は 2016年1月22日(金)2限 (自筆ノート持込可、講義中配布のプリント持込可) です。


  •  第1回、第2回 (イントロダクション:NEW)
  •  第2回 (気体液体相転移)+レポート問題No.1 締め切り11月15日±1週間
  •  第3回 (スピン系の統計力学)
  •  第3回 (平均場近似)(つづく。。)
  •  第4回 (平均場近似)(つづき)+レポート問題No.2 締め切り12月15日の週の講義
  •  第5回 (ランダウ理論)+レポート問題No.3 締め切り1月9日
  •  第6回 (スケーリング理論)
  •  第7回 (くりこみ群の考え方)NEW !
  •  第8回 (合金の理論:Bragg-Williams近似)+レポート問題No.4 締め切り1月15日NEW !!
  •  第9回 途中作成中ですが、(線形応答1回目)
  • レポート問題No.5 締め切り2月15日NEW !!
    「線形応答で ”時間に依存する場合の線形応答”による帯磁率の結果でω→0にした極限の結果と、”時間に依存しない場合の線形応答”による帯磁率の結果が異なる。これはなぜか考えよ」





  • 第19回「日本IBM科学賞」

    2011年、物性若手夏の学校 テキスト

    (new 2011.10.8)




    大学院修士修了のみなさんへ(2011年3月25日:物理学専攻卒業式における物理学専攻主任としての祝辞)

    みなさんご卒業おめでとうございます。諸君の大学院での努力が実を結び、 いま卒業の時を迎えたことに、心から祝福を述べたいと思います。 また諸君を見守り、支えてくれた多くの人、ことに保護者の皆さんに、 心から敬意と感謝を述べたいと思います。

    諸君は今後それぞれ新しい世界へと入っていくわけです。修士のかたは続けて 博士課程に進むこともありますが、新しい職場に赴くひともいるでしょう。

    卒業という晴れやかな場ですが、どうしても大震災と原子力発電所の事故に ついて避けることができません。諸君は2011年という日本にとって、 世界にとって忘れることのできないまさにその瞬間に卒業することになりました。 このことは決して忘れることはできない。

    物理学を専攻した諸君の、他とは違った特性が2点あります。それをまず述べます。
    1つ目は、物理学のユニークな点です。 物理学は1つあるいは少数の原理、たとえば量子力学、統計力学、それからわかることを 数学的技術の粋を尽くして導き出すという課程を経ます。 これは理学系の他の専攻に比べても、ましてや文系に比べると非常に特異な態度です。 ですから、我々の論理の運び方は日本人世間一般からは非常に乖離しています。 ご両親、また中学高校の友達と話していて、何か話がかみ合わないという経験も 多かった(最近多くなった)という人もいると思います。そう、そうなのです、 物理学専攻のおかげで、諸君は「変わった人種」になっているのです!

    今後、世界は必ずや多様化します。したがって実はこの「変わった人種」の 存在は非常に大切となります。 日本人にはなかなか存在しない珍しい人々として、諸君らはこれから 目立って行っていただきたい。

    もう1つの特性は、サイエンスの基礎としての物理学を学んだことです。 今後、地球全体からの視野、複雑なエネルギー問題、環境問題、 自然と科学の問題、いろいろな難しい問題が現れます。 そのときに、諸君は東大の物理学専攻で学び、新しい成果をあげて 修士論文として発表したという自信をもって、諸君の前に広がる新しい さまざまな問題を解決しようとする努力をしなければなりません。 諸君がしないで、他の誰がやれるというのでしょう。 物理学の研究を通して、科学的な見方の基礎を鍛えてきたはずです。 どのような新しい問題に対しても、わからなくなったら根本まで戻る、 それらの基礎は、物理学を専攻するものの特徴であり、ユニークな点です。 誰でもが納得できる理由をとことん追求して明らかにする、 そのような態度を我々スタッフととともに喜びをもって体験してきたのです。

    諸君の経験と知識、未知の世界に対する物怖じしない態度、 それらこそが物理学専攻の教育が目指してきたものです。 それを身に着けている諸君が、今後長い人生の中で、その身に着けたものを ぜひ生かして、これからの人生と世界に立ち向かっていってほしい。

    最後になりますが、地震から2週間、事態はやっと鎮静化してきました。 しかしまだ多くの被災者がおり、避難している人々がおり、 放射能の危険におびえている人々が数多くいます。 物理を研究して修士課程を修了するものとして、諸君の現在立っている立場は、 非常に重い。今後、かならずや原子力発電はどうするか、 地球のエネルギー収支の全体をどうやっていくか、 自然と科学の共存はどうすればよいか、 人類が生き延びていくためにどのような未来を設計すべきか。

    それらの問いが、我々にも、そして未来に現実に直面していく諸君に 課せられていくに違いない。この問いは非常に重い。 しかし、このような問いに対し、物理学の修士号を持つ人間として 何ができるか、これからずっと考えていってほしい。

    修士課程卒業おめでとう。そして今後の難題に対して勇気を もって立ち向かっていってほしい。
    小形研へ
    ogata@phys.s.u-tokyo.ac.jp
    高温超伝導の理論

    高温超伝導の理論

    強相関電子系のフェルミ面
    ストライプ状態
    高温超伝導体の擬ギャップ現象
    強相関電子系の低温比熱、低温エントロピーとスピン電荷分離
    グッツウィラー近似の拡張

    d波超伝導体における不純物および磁束近傍の電子状態

    p波超伝導体

    2次元スピン系でのスピン励起

    低次元有機物質に関する理論

    フラストレーションのある系での電子状態


    高温超伝導の理論

    強相関電子系のフェルミ面

    高温超伝導体ではフェルミ面上の特殊な点(波数空間で(0,π)などの点)において、伝導性を担う準粒子に異常が見られ、このことが異常金属状態の原因であると考えられれている。これは平坦バンドや擬ギャップの問題として知られている。一方、フェルミ面の形は相互作用によって変形する可能性があることも知られている。我々はこの両者の問題が高温超伝導のモデルにおいて密接に関連していることを示し。[1] 具体的には高温超伝導のモデルハミルトニアンであるt-Jモデルに対して、絶対零度における変分波動関数を新たに考察し、強相関の効果を調べた。その結果、広いパラメータ領域においてフェルミ面が自発的に変形した状態が安定化し、実験とよく一致するフェルミ面が得られることがわかった。この結論は、他の近似計算である高温展開の結果とも一致している。相互作用によるフェルミ面の変形という一般的な現象について、従来の摂動論的な方法と全く異なった手法によっても調べることができるということが初めて示された。

    ストライプ状態

    強相関に起因する特殊な形の波動関数として、電荷密度波と反強磁性の密度波(とくにインコメンシュレートの波数を持つスピン密度波)および、d波対称性を持つ超伝導秩序の3者が空間的に波打ちながら共存しているストライプ状態と呼ばれるものが可能である。実験的にもこのような形での超伝導と反強磁性の共存という可能性が見出されている。このストライプ状態がt-Jモデルにおいて実現するかどうかについて、上記と同じような絶対零度における変分法によって調べた。[2] とくに超伝導の秩序変数の符号が、空間的に正負を交替しながら存在するという今まで考えられて来なかったような特異な状態が安定化する可能性が示された。

    高温超伝導体の擬ギャップ現象

    高温超伝導体における異常金属状態は、擬ギャップ(または、スピンギャップ)に起因するものであると考えられている。この現象について、フェルミ液体論から出発し、強い超伝導揺らぎを考慮するという観点から調べた。その結果ハバードモデルという単純なモデルによって、微視的に擬ギャップ現象を説明することができることが示された。さらに実験との比較により、この理論の正当性についても確認することができ、種々の実験(光電子分光、トンネル分光、NMR、中性子散乱、輸送係数、光学伝導度など)の結果をよく説明することを示した。[3-6]

    強相関電子系の低温比熱、低温エントロピーとスピン電荷分離

    典型的な強相関電子系のモデルであるt-Jモデルについて、高温展開の手法により有限温度とくに低温領域での比熱、エントロピーを調べた。[7] 自由エネルギーの高温展開では、絶対零度への外挿が常に問題になるが、我々は、現在までの計算より高次の次数まで計算を進め、さらに新しい外挿法を組合せることによって低温領域での自由エネルギーを精度よく評価することができた。その結果、絶対零度での相分離の可能性が強いことを示した。また得られた低温比熱やエントロピーのドーピング依存性や温度依存性は実験とのよい一致を示す。さらに、エントロピーが急速に増加する2つの特徴的な温度領域があることが見出され、これはt-Jモデルにおけるスピン・電荷分離の結果であるという議論を展開した。

    グッツウィラー近似の拡張

    高温超伝導などの問題で重要になる強相関の効果を、理論的にどのように取り入れればよいかという問題は未解決のものである。Gutzwiller 近似はその1つの方法であり、強相関の効果をt-Jモデル中の変数tとJの「くりこみ」として取り入れている。しかし超伝導と反強磁性の共存などを考慮する際には、従来の近似方法を拡張しなければならないことが分かった。この方法によると、反強磁性がある場合、変数tとJの強相関によるくりこみが大きく変更を受けるということがわかる。[8]


    d波超伝導体における不純物および磁束近傍の電子状態

    不純物近傍の電子状態

    高温超伝導体はd_x^2-y^2波超伝導という従来型のs波超伝導と異なる異方的超伝導体であると考えられている。このような異方的超伝導における不純物の効果については、実験的にも理論的にも興味が持たれている。実験では CuをZnやNiで置き換えることに相当する。Znの場合は非磁性(S=0)、Niの場合は磁性(S=1)不純物となるが、不純物が非磁性であるにも係わらず、磁気モーメントが発生している可能性が指摘されている。この現象について、t-Jモデルの平均場近似を用いて理論的に調べた。その結果、強相関の効果で伝導性を担うキャリア数が少なくなっている場合には、磁気モーメントが発生する可能性があることがわかった。[9] また磁性不純物の近傍では、不純物の持つスピンが局所的な磁場をあたえるので、ゼロエネルギーピークを分裂させるということが明かになった。[10] この現象は実験的に検証できるものである。

    磁束周辺の電子状態

    超伝導体に磁場をかけると、磁束が導入される。とくに異方的超伝導における磁束まわりの電子状態は、従来のs波対称性を持つBCS超伝導の場合と異なって、興味深いことが起こる。さらに高温超伝導体ではコヒーレンス長が短いことと、反強磁性ゆらぎが強いことにより、特殊な磁束状態が可能になる。このことについてGutzwiller近似を用いて調べ、磁束中心付近で d波超伝導が壊される代わりに、反強磁性が生じるという可能性を示した。また磁束の持つ電荷について調べた。[11]


    p波超伝導体

    Sr_2RuO_4という物質は、高温超伝導体と非常に似た構造をしているが、超伝導は、p波対称性を持つtriplet 超伝導体である。この超伝導発現の機構を微視的な立場から理解するために、今までのスピンゆらぎによる超伝導発現の理論を拡張した。とくに (1) スピンゆらぎの異方性が強く (2) フェルミ面の形状とネスティング条件がよい場合には、反強磁性スピンゆらぎによっても triplet 超伝導が実現することを示した。[12] これは従来のような、強磁性スピンゆらぎによる triplet超伝導の発現機構と全く異なる新しいものである。このことはFLEX近似によっても確かめられた。[13]


    2次元スピン系でのスピン励起

    フラストレーションのない2次元スピン系の基底状態には反強磁性の長距離秩序があり、スピン波の励起が低エネルギー励起として存在している。しかしもっと高いエネルギー領域でのスピン励起がどの様な構造を持つかについてはわかっていない。最近の中性子散乱の実験で、この領域も精度よく実験できるようになってきた。一方、理論的には通常の反強磁性の平均場近似の結果はよく知られているが、高温超伝導を契機に考えられたRVB状態またはπ-flux状態においては通常と異なったスピン励起(スピノン励起)が期待される。我々は、この違いがどのような形で現れるか調べ、実験的に検証できるということを提唱した。[14]


    低次元有機物質に関する理論

    有機伝導体において、2種類の密度波(電荷密度波、スピン密度波)が共存することが実験的に見出されている。この結果は、従来の1次元パイエルス不安定性の議論からは理解できないものであった。しかし長距離のクーロン斥力を考慮すると、共存状態が素直に理解できる。我々はこのアイデアをさらにくりこみ群を用いて調べ、温度領域によってスピン密度波的に見える状態から低温でのMott絶縁体状態へクロスオーヴァーするということを示した。このことは実験で観測されており、この興味深い現象がくりこみ群の観点から理解できることを示した。[15]

    またp-EPYNN・[Ni(dmit)_2]という有機物質は、大きなスピンギャップを持つ梯子型の構造を持つ。この物質に不純物を導入すると、不純物周りに特徴的なスピン配置を伴った局在スピンが励起されることが実験的にわかった。この結果についてスピン系による解析を行なった。[16]


    フラストレーションのある系での電子状態

    PrBa_2Cu_4O_8という酸化物には、Cu-Oの2本鎖がフラストレートした形で含まれている。この物質は鎖方向に金属的伝導性を示すが、ほとんど同じ形の物質で 1本鎖の場合(PrBa_2Cu_3O_7)には絶縁体である。我々はこの特異な現象がフラストレーションによる1次元電荷密度波の融解という観点から説明できるということを示した。[17] 実際に、幾何学的フラストレーションがある場合に長距離クーロン斥力が働くと、高いエネルギーのまま金属状態になることが数値計算によって示された。